配置転換や転勤、法的に考えるとこうなる

配置転換や転勤、法的に考えるとこうなる

配置転換や転勤の辞令を受けた経験がある方は多いのではないでしょうか。業務命令だとわかってはいても個人の事情もありますから、複雑な気分になりますよね。法的にはどのような扱いになるのでしょう。

配置転換とは

日本の人事制度の一環で、企業によってはローテーションとも呼んでいます。大きな企業ではジョブ・ローテーションとして定期的に行っている場合もあります。同一の企業内で職務の担当を変えたり勤務場所を変えたりすることを指します。それまでと違う事業所に移る場合には転勤と呼ぶことが多くあります。転勤の場合、引っ越しを必要とすることもあります。

また、一般的には配置転換や転勤はある程度の長期に渡っているものを指します。

配置転換や転勤の話をする前に、混同されやすい異動について補足しておきましょう。配置転換や転勤は、異動の中の一つです。異動には配置転換や転勤以外にも、担当替えや職種替え、出張や出向、転籍などがあります。

企業は無制限に配置転換や転勤を命じることができる!?

事業主が労働者に対して配置転換や転勤を命じる際には根拠が必要になりますが、一般的には就業規則や人事規定などで使用者側に幅広い人事権が認められていますので、これを適用します。事業主に人事権があると言っても、事業主が無制限に自由に労働者を配置転換させたり、転勤させたりすることはできません。労働者を配置転換や転勤させるために何が必要なのでしょうか。

配置転換や転勤に必要なもの

事業主が労働者を配置転換や転勤させようとする場合には、事業主と労働者との間に労働契約上の根拠があることが必要です。

事業主は労働者の雇い入れの時に労働条件について書面で交付する義務を負っています。この書面は労働条件通知書といいますが、労働条件通知書(※)で通知しなければいけないものには「絶対的明示事項」と「相対的明示事項」があります。絶対的明示事項は必ず明示しなければいけないもの、相対的明示事項はその項目の規定が社内にあれば必ず明示しなければいけないものです。

これに関しては、労働基準法第15条に以下の規定があります。

労働基準法第十五条

※労働条件通知書について
通常は書面の交付が必要な労働条件通知書ですが、兵庫労働局の発表では、条件を満たせば労働条件通知書の交付をしなくても良いとなっています。

就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。

ただし、この条件を満たしていなければ労働契約自体が有効に成立していたとしても、労働条件を明示しなかったことになりますのでご注意ください。ですから、たとえ面倒であっても、個々の労働者の雇い入れ時に労働条件通知書を交付しておいた方がトラブル防止の観点から考えても効率が良いでしょう。

パートタイム労働法上の明示事項
東京都労働局 労働基準法のあらまし(PDF)より

ポイント1) 配置転換や転勤に労働契約上の根拠が必要

この労働条件通知書で就業の場所や従事すべき業務を労働者に向けて明示しているのに対して事業主が配置転換や転勤を行おうとするのであれば、それについての根拠が必要です。事業主と労働者は雇用契約を結んでいますが、最初の契約内容と何らかの変更がある場合(今回の場合には配置転換や転勤です。)には、何らかの根拠が必要になるというわけです。

労働条件通知書には、採用時に就業する場所、つまり最初の就業場所しか明示されていないことも多く、トラブルの原因にもなっていますが、これを防ぐためには労働条件通知書に「国内・外への配置転換・転勤を命ずる場合がある」ことを記載しておくことをお勧めします。配置転換や転勤があるのも最初の労働条件に盛り込んでおくことで、トラブルを回避できるケースがたくさんあります。他にも、就業規則に「業務上の必要性に応じて、配置転換や転勤を命じることができる」などという一般的な規定があれば、客観的に合理的と判断できます。この部分に関しては、労働契約法第7条の規定によります。

労働契約法第七条

原則は上記の通りですが、例えば特定の職種に限定する合意があったり、勤務地域限定採用(※)などで事業主と労働者の間で勤務地などを限定することに関して合意したりしているのであれば、その労働者に関してはこの合意が就業規則よりも優先されます。ただし、特定の職種に限定することが認められやすいのは医師や看護師、大学教員など特別な資格や能力あるいは技術のある人が多いようです。

※勤務地域限定採用とは
勤務地域限定採用とは、限定された地域でだけ勤務するというものです。ですから、配置転換や転勤はありますが、一般的には転居を伴わない範囲内での異動になります。ただし、その地域内でしか昇進もできないことになってしまいますので、ポストに空きがなければ、昇進を考えるのであれば限界があります。
企業によって呼び方が違い、他にもエリア限定職、地域限定型採用、地域限定職、特定総合職、エリア総合職、特定総合職、準総合職という呼ばれ方もします。
個人的な事情や家庭の事情などで転居を伴うような配置転換や転勤に応じにくい人にとっては非常に魅力のある働き方ですが、日本国内・海外を問わずに配置転換や転勤に応じられる人と比べて、給与が低めであることや昇進率が低いというデメリットもあります。

ポイント2)事業主の権利濫用ではないことが必要

一定の根拠があれば、事業主には「配転命令権」(※)があります。

※配転命令権とは
配転命令権とは、簡単に言うと事業主が労働者の配置転換や転勤を命じることができるというものです。事業主には、労働契約上の労働指揮権を持っています。ですから、労働者と取り交わした労働契約上の指揮権の及ぶ範囲内での配置転換や転勤については、事業主から労働者に対する業務命令が出されるのです。
事業主には配転命令権が労働契約上の根拠が必要ですから、一般的には就業規則などにその旨の記載をしておきます。就業規則や労働協約などにそのような包括的な規定がされていて実際に業務上の必要性に応じて配置転換や転勤が行われているのであれば、配転命令権があると言えます。

ただ、配置転換や転勤の命令が配転命令権の濫用と判断されると、その配置転換や転勤は無効です。その配置転換や転勤が配転命令権の濫用にあたるかどうかは業務上の必要性があるかどうかということと、その労働者の受ける日常生活上の不利益との兼ね合いに基づいて総合的に判断されます。事業主に配転命令権が認められているとはいっても、配転命令権の濫用はできません。これについては、労働契約法第3条5項に規定が根拠になります。

労働契約法第三条

以下のようなケースは、配転命令権の濫用と判断されます。

  1. 業務上の必要性がない
  2. 業務上の必要性の有無に関わらず、不当な動機・目的が認められる
  3. 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである

配転命令権に関しては有名な判例がありますので、ご紹介しておきたいと思います。


事件名:従業員地位確認等請求事件(東亜ペイント事件)
事件番号:昭和59年(オ)第1318号
最高裁判所第二小法廷(昭和61年7月14日)
第一審 大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)第6261号 昭和57年10月25日判決

内容:
労働者である営業A。勤務地を限定せず採用され、大卒後約8年間は大阪周辺で勤務していた。会社からの広島への転勤の内示を拒否し、名古屋への転勤の内示も拒否した。結果、会社から就業規則にある懲戒事由に該当するとして懲戒解雇された。Aは、母、妻、長女との別居になるという家庭の事情で配置転換命令を拒否し、別居転勤命令・懲戒解雇の無効を主張して提訴した。
会社(本社は大阪)は全国に10か所以上の事務所(または営業所)を持つ。
就業規則には「業務の都合で異動あり。正当な理由なしに拒否できない。」旨の規定があり、営業担当の転勤は頻繁にある。

結果:
転勤命令を拒否したAに対する懲戒解雇を無効とした原判決を破棄して差戻したが、一部破棄差戻しで労働者側敗訴。
名古屋への転勤命令は業務上の必要性に基づくもので、家庭の事情を理由に配置転換・転勤の命令を拒否したことを理由にした懲戒解雇は有効。


このケースの場合、配置転換や転勤に労働契約上の根拠として就業規則に規定があったことが挙げられます。また、実際に社内での配置転換や転勤は頻繁に実施されていて、採用時に勤務地が限定するという労使での合意もなかったことから事業主は個々の労働者の個別の合意を得なくても労働者の就業場所を決めることができます。

ただ、このケースの場合には家族との別居という事情がありましたが、引っ越しを伴う配置転換や転勤の場合、場合によっては労働者に甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせることもあり得ます。ですから、事業主の配転命令権は無制限に認められませんし、当然ながら濫用することもできません。

また、労働者が被る不利益に関しては個別具体的に判断していきます。ただ、これまでの判例を確認してみると、傾向としては、病気の家族の介護が必要なケースの場合には労働者に生じる不利益が著しく大きいと判断されるようです。ですから、労働者に対して配置転換や転勤を命じる場合に、もし転居を伴うのであればできる限り家族の事情も考慮に入れた上で事例を出しておく方が良いのではないでしょうか。

配置転換、転勤と育児介護休業法の関係

事業主が配置転換や転勤を命じる際には、労働契約上の根拠があり配転命令権の濫用にあたらないことが必要ですが、実は、他にも注意しなければならないことがあります。育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下、育児介護休業法といいます。)にも注意しなければならない点がありますので、併せて確認しておきましょう。

上記の育児介護休業法第26条にあるように、この養育や家族の介護をする労働者に対しては、事業主による配慮が求められます。

ここでいう配慮というのは絶対に配置転換や転勤をさせてはいけないということではありませんし、労働者の負担を軽くするために事業主が何か特別な配慮をする義務があるということではありません。ただ、労働者が育児介護休業法に基づいて配置転換や転勤に難色を示した場合には、事業主は労働者の意見を聴き誠実に対応しておく必要があります。例えば、労働者の意向を聴くこと以外にも、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(PDF)」(平成16年厚生労働省告示第460号)では、第2(事業主が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項)の14で、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること、労働者本人の意向をしんしゃくすること、配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをした場合の子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うことなどが挙げられています。このことからも、事業主は配転命令権の存在を盾にするのではなく、労働者が納得した上で配置転換あるいは転勤ができるように面談を行うなどすることが望ましいのではないでしょうか。

さいごに

労働者に対して配置転換や転勤を命令するには事業主に配転命令権が必要です。法的な根拠が存在することが求められますので、配置転換や転勤の可能性がある場合には就業規則や労働協約に規定を設けておきましょう。