懲戒処分の運用の手続き、どうすればいい?

懲戒処分の運用の手続き、どうすればいい?

自社の労働者に対して懲戒処分を下す場合、その運用のための手続きはどうすれば良いのでしょうか。事前に何のルールもない状態でいきなり懲戒免職にしたら、その懲戒処分は無効になってしまいます。

懲戒処分とは

懲戒処分は、組織としての秩序や規律・風紀を維持するために課せられるものです。公務員の場合には、免職・停職・減給・戒告の4種類がありますが、民間企業の場合には、以下のものの場合が多いようです。

まず、懲戒処分ほどではない軽めの処分として以下のものがあります。これらの3つのものは、懲戒処分ではありませんから、履歴書の賞罰欄に記載する必要はありません。

  1. 口頭注意
  2. 厳重注意
  3. 訓告(訓諭・訓戒)

次に懲戒処分は以下のものです。呼び方などは企業によって多少の違いがある場合もありますが、たいていの場合は以下のいずれかに該当します。

  1. 戒告 → 口頭での注意のみで済ませます。
  2. 譴責(けんせき) → 始末書の提出をさせます。
  3. 減給 → 該当する労働者の賃金を一定額だけ減額します。
  4. 出勤停止 → 労働契約はそのまま維持し、出勤を禁止しその分の賃金の支払いもしません。その期間としては数日程度が一般的です。
  5. 停職 → 労働契約はそのまま維持し、出勤を禁止しその分の賃金の支払いもしないという点では出勤停止と同じですが、出勤停止より期間が長期に渡るのが一般的で数週間から数カ月程度が多いです。
  6. 降格・降任 →職務上の地位などを下げ、降格・降任後はその職位での賃金になるので減給とは異なります。
  7. 諭旨退職 → 諭旨解雇よりも程度が軽いもので、該当する労働者に選択の機会を与え、自発的に退職した形式になり退職届もあります。自己都合退職として扱うため、雇用保険法の失業給付に関しては普通の退職と同様に扱われます。
  8. 諭旨解雇 → 企業からの勧告による自主退職です。懲戒解雇よりも処分の程度は軽く、減額された退職金が支払われることがあります。企業側の温情があり、退職金・解雇予告手当・失業手当の対象です。ただし、この勧告を断ると、懲戒解雇にされ退職金も出ません。
  9. 懲戒解雇 → 重大かつ悪質な事案に対して行われるもので懲戒処分の中で最も重いものです。退職金が全く支払われなかったり、場合によっては一部だけが支払われたりします。

今回は、これらの懲戒処分をするにあたり、運用上の手続きをどうすれば良いのかについてお話ししていきます。

懲戒処分の目的

まず、はっきりさせておきたいのは何のために懲戒処分をするのかということです。どのような場合にどのような目的で懲戒処分をするのかということです。
最近では、セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)パワー・ハラスメント(パワハラ)、それからマタニティ・ハラスメント(マタハラ)などが話題になることも増えてきました。ちなみにこの3つのハラスメントは、働く女性を悩ませるものとしても知られています。

懲戒処分は企業の秩序や規律を維持するために、違反した労働者に対して課すものです。企業として、どうしても認められない言動などに対して、その程度や内容に応じて一定の制裁を課すものですから、そこには運用のための基準やルールが必要です。ですから、社内の秩序や規律を守り、問題行動を自戒させ健全な職場を保つためにルールを犯した者に対して懲戒処分を課します。

企業秩序定立権とは

使用者は企業の秩序を定立し維持する権限を持っています。この権限を「企業秩序定立権」といいます。企業秩序定立権は、企業に属する従業員だけではなく、企業が管理する施設や設備にも及びます。企業が組織として事業を運営していくためには秩序や規律の定立と維持が必要です。ですから、企業は、その権限が侵害されるような言動に対して企業の秩序の維持や回復に必要な場合には業務命令として指示を出し、必要に応じて違反者に対しては懲戒処分を課します。ただし、この懲戒処分には就業規則などの懲戒規定や服務規律などでの事前の規定とその周知が必要です。

企業秩序遵守義務とは

企業に企業秩序定立権がある一方で、企業に属する従業員は自分が属する企業の秩序を維持する義務を負っています。これを、「企業秩序遵守義務」といいます。従業員は企業と労働契約を結ぶ際に、就業規則その他これに類するものに従うことが前提です。

懲戒処分の運用に必要なもの

懲戒処分は事前のルール化と周知

労働者が企業の秩序や規律あるいは風紀を乱したからと言って、どのような場合でも懲戒処分を課すことが認められているわけではありません。先ほどの企業秩序定立権でのお話しの繰り返しになってしまいますが、企業が労働者に制裁を課すためには事前に規定を作成して、それを周知させておかなければなりません。

懲戒処分を有効にするためには、就業規則などに明文化してルールとして社内に浸透させてください。どのような言動が懲戒の対象になるのか、それに対してどのような懲戒処分が運用されるのかなどを事前に規定して周知させておかなければ、懲戒処分としては法的に有効と認められません。その際の手続きはどのようになっているのかをできる限り具体的に記載してください。
少々古い資料ですが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の従業員の採用と退職に関する実態調査-労働契約をめぐる実態に関する調査(Ⅰ)-(P.62)によると、懲戒処分を規定している企業は80.5%あるそうです。懲戒処分の規定が 「ある」 と回答した企業のうちの96.8%が「就業規則」 に規定があり、 「その他の社内規程」 とする企業が9.0% 「労働協約」 が7.3%でした。このことから、懲戒処分の運用に関する規定などは就業規則に記載するのが一般的だと言えます。

懲戒処分の運用ルール作成時の手続き

続いて、懲戒処分を就業規則に記載し、それを有効なものにするための手続きについてのお話しです。常時10人以上(※)の企業には就業規則を作成する義務があり、作成または変更した就業規則は所轄の労働基準監督署長に届け出をしなければなりません。なお、就業規則の作成および変更に際しては、企業は過半数代表者もしくは過半数組合の意見を聴取する義務も負っています。さらに、作成もしくは変更した就業規則は社内の全ての者に対して周知させなければなりません。

※ 常時10人以上とは、常態として10人以上の労働者を使用している場合(一時的に10人未満になることも含まれます。)を指します。この労働者の人数には、パートタイム労働者やアルバイトなども含まれます。

就業規則作成の流れ
厚生労働省 1 就業規則に記載する事項 2 就業規則の効力(PDF)より

懲戒処分の運用や手続きで気を付けたいこと

次に、懲戒処分の運用や手続きのルールや処分の客観性を確認していきたいと思います。懲戒処分の運用は適正な手続きがなければ無効です。
企業が懲戒処分を検討するのは、労働者が何らかの非行事実を起こしてしまった場合が多いと思います。しかし、従業員が企業の秩序や規律・風紀を乱した場合に、就業規則に懲戒処分があるからと言って簡単に懲戒処分を課してはいけません。企業にとっての非行の事実が、客観的に見て懲戒処分に値する程度のものなのか公正な判断が必要です。また、一つの事案に対して複数回の懲戒処分をする二重処罰はできませんし、その懲戒処分が運用の手続きを欠いたものだった場合には、懲戒権の濫用になってしまいます。また、懲戒処分の程度を決める際には最も軽いものから順に検討していくようにします。この部分に関しては重要なので、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

1 就業規則などで事前にルールの明文化と周知が必要です。

懲戒処分を実際に運用するには適正な手続きが必要です。就業規則を作成もしくは変更していたとしても、それを周知させていなければ懲戒処分として使用できません。必要な手続きは事前に適正に完了させておきましょう。

2 罪刑法定主義の原則を明示してください。

どのようなものを懲戒処分の対象とするのか、その非行事実をどのように処罰するのかをあらかじめ明文化してルールを規定しておいてください。

3 全ての労働者を平等に扱ってください。

平等取扱いの原則です。職位や職種や性別、人種や信条などは懲戒処分の内容や程度とは関係ありません。

4 懲戒処分の規定の作成以前の非行事実には懲戒処分が適用できません。

効力不遡及の原則です。懲戒処分が作成された以降に、それ以前の非行事実が確認されたとしても、その非行事実を以て懲戒処分を課すことはできません。

5 懲戒処分の内容や程度には客観的な妥当性が必要です。

懲戒処分には合理性と相当性が求められます。誰の目から見ても軽微な非行事実に対して懲戒免職にするというような重すぎる処分は相当性の原則が保たれていません。

6 連座制にはできません。

懲戒処分は個人に対して行うのが原則です。基本的に懲戒処分は個人の非行事実に関して個別に行うものです。たとえ集団での非行事実であったとしても、それぞれの犯した内容や程度によって懲戒処分を課してください。

7 一事不再理です。

二重処罰は禁止事項です。同じ事案に対して、該当者を複数回にわたって処分することは認められません。裁判などでも、一度判決が確定されれば同じ事案に対して二回目の罰は与えることができません。あくまでも、一つの非行事実に対して一つの懲戒処分ということですので、複数の非行事実に対しては複数の懲戒処分もあり得ます。

懲戒処分というのは、罰せられる人がいて、懲戒処分の内容によってはその後の人生にも影響が残る可能性もあります。ですから運用するためにはルールに従って、慎重に適正な手続きを踏まなければなりません。また、普段から懲戒処分が発生しないように社員教育や研修を行い、企業人としてのモラルの向上に努めておくことも忘れてはなりません。

懲戒権行使で注意すべき点

懲戒処分を運用する際に手続きが必要なのはここまでお話しした通りですが、実際に懲戒処分が必要なのかどうかを見極めることも非常に重要です。

最初に事実の確認

労働者に対して懲戒処分をする際には、必ず事実確認を十分に行ってください。事実が確認できたら、具体的に就業規則のどの部分に触れてしまうのか、ということを非行事実の行為者に対して伝えてください。

弁明のチャンスを

企業の秩序などを乱したり、または社会的信用を失墜させたりした行為者に対して一刻も早い懲戒処分を課したいという気持ちは分かります。しかし、企業側の事実確認の調査結果だけで一方的な処分をしてしまっては、不公正あるいは不透明だと批判を受ける可能性があります。このような疑念を抱かせないためにも行為者に対して弁明の機会を与えてください。信義誠実の原則(信義則)からしても、行為者に弁明の機会を与え、そのうえで必要であれば懲戒処分の運用の手続きを進めることをご検討いただければと思います。

誰にでも公平で公正に

普段の勤務態度などは労働者ごとにさまざまで、生産性も人によって違います。しかし、懲戒処分を運用する上では同じ内容・程度であれば、同じ懲戒処分を課してください。職位や生産性、男女の性別や国籍や信条などは、その懲戒処分の対象とは関係ありません。

特に初めて懲戒処分の運用をする際には手続きや処分の内容や程度について迷うことが多いと思います。そのような場合には、ぜひ人事院の懲戒処分の指針についてを参考にしてみてはいかがでしょうか。

さいごに

懲戒処分の運用には適正な手続きがとられていることが必要です。事実の確認や問題を起こした労働者の弁明を行ってから、懲戒処分の適用をどのようにするのかできるかぎり慎重に判断してください。

メルマガ登録