健康ブームで自転車通勤が増加? 人事が気をつけるべきポイントとは

健康ブームで自転車通勤が増加? 人事が気をつけるべきポイントとは

昨今の健康ブームで、自転車に乗っている人を見かけることが増えてきました。中には、通勤に自転車を使っている人もいて、とても健康的ですね。自転車通勤のメリットと導入時の注意点についてまとめました。

自転車通勤の増加

健康ブームが到来し健康への関心が高まる中で、より健康な状態でいたいという思いから、さまざまな健康法を試す人が次第に増えてきました。最近では、心とからだの健康推進運動健康経営という言葉があるように、健康ブームは企業とも深く関わるようになってきました。

そのような中で増えてきたのが、自転車通勤です。思い返せば、昔は「病気になっていなければ健康」だと考えられていました。しかし、健康に対する社会の価値観が変化して、体を中から健康にしようと健康食品や各種のサプリメント、生野菜ジュースなどが流行することもありました。そして、それと並行するかのように体力の維持・増進や肺活量の向上が期待できる自転車にも注目が集まるようになりました。

警察庁によると、東日本大震災以降、節電意識や交通機関のダイヤの乱れに影響されない自転車通勤が増えたそうです。自転車通勤が増え、今では「自転車ツーキニスト」という造語も違和感なく使われるようになっています。

自転車通勤のメリット

自転車通勤制度を導入するのは、昨今の健康志向の中で企業にとっても非常時に便利に使用できることもあって魅力があります。他にはどんなメリットがあるのか、一緒に考えてみましょう。

  1. 自転車通勤は労働者の体力づくりの一環にもなるので、健康経営の一助にもなります。また、各種の発表から肥満は病気の原因になることもわかっています。糖尿病や高血圧、心筋梗塞や脳梗塞、脂質異常症や睡眠時無呼吸症候群などが挙げられますが、他にも肥満が原因になりうる病気はまだまだあります。特に睡眠時無呼吸症候群は、昼間に眠たくなってしまったり、判断力や集中力を欠いてしまったりすることでも知られている病気です。そのような状況は、時には労災事故につながってしまうこともあります。
    肥満を改善するためには、食生活の見直しだけではなく、毎日の適度な運動も必要です。ですから、自転車通勤制度を導入・使用することで、通勤時間を活用して労働者の健康度を向上させることをご検討いただければと思います。企業が自転車通勤を応援することが将来的に健康経営につながっていくのです。
  2. 自転車通勤による適度な運動はストレスの発散につながるので、労働者は心を健康に保ちやすくなります。その結果、仕事へのモチベーションの高まりや生産性の向上が期待できます。労働者は通勤時の満員電車などでの疲れから解放されますから、社内の活気が良くなることも期待できます。
  3. 会社で借り上げている通勤用の駐車場が不要になったり、通勤のためのガソリン代の支給が大幅に減ったりすることで、費用削減につながります。
  4. 自転車通勤が増えることで、企業全体での二酸化炭素の排出量が削減でき、社会に対してもエコ意識の高い企業と認識されやすくなります。地球環境大賞などのエコな団体(企業も含む)を表彰する制度で賞を受賞すれば、企業としての社会へのアピールにもつながります。
  5. いわゆるブラック企業に人が集まりにくいのに対して、社会から評価されている企業には優秀な人材が集まりやすくなります。生産年齢人口が減少している今だからこそ、優秀な人材を少しでも多く採用したいというのは、どこの企業でも同じではないでしょうか。

自転車通勤を制度として導入することには、このようにたくさんのメリットがあります。しかし、自転車通勤制度を企業として導入するには、いくつかの準備が必要です。
では、次にルール作りや社内への周知の徹底など、細かい部分を見ていきましょう。

自転車通勤制度を導入する前に

労働者が会社へ通勤するための自転車通勤の制度を作るにあたって、駐輪場の確保をどうするかも決めておいてください。オフィス街で駐輪場を必要な数だけ確保できるのか、駐輪場の費用は誰が負担するか、自転車通勤が自転車を放置した場合の撤去料などは労働者本人が負担する、自転車通勤での経路の確認などは事前にしておきましょう。特に、悪天候の場合は別ですが労働者のその日の気分で自転車通勤かそれ以外の方法での通勤かを選べるようにしてしまうと収拾がつかなくなります。労災事故(通勤災害)や通勤交通費の問題も出てきますので、自転車通勤に関しては事前の届出制もしくは許可制にすると良いと思います。自転車通勤を導入する際には、きちんとルールを整備しておきたいものです。

また、会社に電車やバスでの通勤を申告して通勤交通費を得ていた労働者が実際には自転車通勤をしていた場合の対応なども決めておきましょう。もし、通勤交通費は実費支給というルールの会社であれば実際に使用していないバスや電車の代金は支給する必要はありません。仮に支給してした後で事実が判明した場合には不当利得の返還義務(民法703条)の規定によって、返還させることができます。また、そのような場合に不正をした労働者に対して懲戒処分をするのであれば、就業規則などに事前に明記し、周知徹底させておかなければ規則が効力を発揮しない点にも留意してください。

民法703条

自転車通勤への注意喚起

自転車通勤をする人は、必ずしも会社のすぐ近くに住んでいるとは限りません。自転車を通勤の手段として導入する際には、自転車通勤には人事部から十分な注意喚起とルールの徹底をしておきましょう。

自転車通勤にはルールの徹底をする

自転車通勤者用に、社内でルール作りを行いましょう。気軽に使える自転車だからこそ、注意が必要です。法令を守り安全運転を心がけることは自転車通勤者だけではなく全ての乗り物を運転する人の義務ですが、念のために当たり前のことも社内のルールに盛り込むようにしておくと安心です。例えば、雨天時に傘をさして走行することや携帯電話を使用しながら走行する危険性など、乗り慣れれば気の緩みからついやってしまいがちなことについては、会社からも定期的に注意をするようにしてください。

自転車は、道路交通法上は軽車両です。ですから、自動車と同じようにアルコールを飲んだら運転しない・させないという意識付けを社内に徹底しておきましょう。

では、自転車通勤のリスクを大きく3つに分けて考えてみたいと思います。

  1. 自転車通勤の通勤中の事故
  2. 自転車通勤の個人賠償保険
  3. 自転車の整備

自転車通勤者に事前のアナウンスを~自転車通勤中の事故について~

自転車通勤をする際に特に注意してほしいのが、通勤途中の事故についてです。警察庁の統計によると、平成26年に起きた自転車関連の事故の件数は98,700件でした。1日に270件ほどの自転車事故が起きていることが分かります。

一般的に通勤途中の事故は通勤災害=労災認定の対象です。ただし、必ずしも労災の認定を受けられるとは限りません。労働者災害補償保険法(以下、労災法)では、通勤災害の要件について以下の記載があります。

労働者災害補償保険法 7条

これについて、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

自転車通勤時の事故が通勤災害として認定されるには、事故に遭ったのが「通勤」の途中であることが前提です。

  1. 仕事のために
  2. 上記の2項の一・二・三の3つのうちのいずれかに属するために
  3. 合理的な経路および方法で
  4. 基本的に逸脱や中断をせずに

という要件に該当することが通勤災害の認定には必要です。

以上のことから、会社と自宅を往復する際に使用した経路によっては通勤災害が認められないケースがあることを自転車通勤の希望者には事前にアナウンスしておきましょう。

<自転車通勤が自損事故を起こしたり、被害者になったりした場合>

自転車は健康的で便利に使用できますが、その便利さから途中で寄り道をしてしまったり、一般的に考えられるような最短ルート以外を好んで使用してしまったりしているケースもあります。例えば、春になると桜並木を選ぶなど景色の良い道を使っていたり、坂道を嫌い遠回りになっても平らな道路を選んでいたりしていると、労災法上の「住居と就業の場所との往復を合理的な経路及び方法」での通勤とは認められず、通勤災害として認定されないことがあります。

<自転車通勤者が加害者になった場合>

自転車通勤者は、自動車通勤者やバイク通勤者と比べて保険に加入していないケースが多いのも特徴です。万が一の話ですが、自転車通勤者が事故を起こし加害者になってしまった場合、その自転車通勤者は刑事上の責任(被害者が死傷した場合には重過失致死傷罪など)や民事上の責任(被害者への損害賠償など)、それから被害者に対して社会上の道義的な責任も負うことになります。高額な損害賠償に対して、保険に入っていない自転車通勤者が対応できるか?という問題が生じてしまいます。

自転車通勤する際に守ってもらうこと~自転車通勤するなら各自で保険に加入~

もし、自転車通勤をしている労働者が保険などに加入していなかった場合、使用者責任が問われることもあります。加害者に対して賠償命令が出た事例をいくつかご紹介します。

自転車事故における高額賠償判決の例
埼玉県鶴ヶ島市 自転車事故における高額賠償判決の実例 より

加害者に損害賠償命令が出た最近の事例をご紹介しましたが、昔に比べると自転車事故を起こしてしまった場合、被害者への損害賠償額の高額化が目立つそうです。ですから、自転車通勤を希望する場合には事前に労働者本人が保険への加入をするように、可能であれば保険への加入の有無の確認をするようにしましょう。自治体によっては兵庫県や大阪府のように自転車保険への加入を義務化しているところもあります。また、すでに自動車保険に入っている場合には自転車の事故に関する特約があることもありますので、確認を勧めてみてください。他にも火災保険の特約に個人賠償保険があるケースもあります。

自転車通勤者には、個人賠償保険の必要性について実際の判例などを使って説明してください。

自転車通勤者に守ってもらうこと~自転車の整備~

整備不良でブレーキの効きが悪い自転車、ブレーキがついていない・片輪のみにブレーキが付いているピストやフィクシーなどの自転車は整備不良として扱われます。競技用の自転車や万が一の危険に瞬時に対応できない状態の自転車は事故を起こす可能性が高いとして、警察でも取り締まりを強化しています。会社として自転車通勤の制度を導入するのであれば、使用して良いのは整備が行き届いた自転車のみ、競技用自転車は不可にするなど具体的な線引きをしておくと安心です。

自転車通勤者は経理部にも連絡を

ご存じのように、通常の給与に加算して支給する通勤手当は一定の限度額までは非課税です。しかし、電車やバスを使用する人と自転車通勤者の通勤手当に関しては、1カ月あたりで非課税になる限度額が違いますので、通勤方法が変わった場合には経理部への連絡をするようにしましょう。なお、平成28年4月1日現在の通勤手当に関する非課税限度額は国税庁のサイトで確認できます。

さいごに

自転車通勤は非常に便利で健康的ですから、リスク対策をきちんとしておけば企業にも労働者にも魅力的な制度です。導入までにはさまざまな準備も必要ですが、この機会に一度検討してみてはいかがでしょうか。

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カテゴリ
健康管理
労災