勤務間インターバル規制は労働者を救えるのか?

働き方改革で進められる長時間労働の是正。是正したくても難しい事情もあると思います。そんな時にこそ検討していただきたいのが、勤務間インターバル規制です。勤務間インターバル規制の詳細をご案内しましょう。

勤務間インターバル規制は労働者を救えるのか?
目次

勤務間インターバル規制とは

勤務間インターバル規制の概略

勤務間インターバル規制は、1日の最終的な勤務終了の時刻から次の始業開始の時刻までに一定の時間的な間隔を保障することで労働者の休息するための時間を確保する制度です。就業中だけではなく、終業後から次の勤務開始時間までの休息時間を考えるのがポイントです。

厚生労働省の労働政策審議会の労働条件分科会でも話題(PDF)になっているものですので、各種のニュースなどでご覧になった方もいると思います。

また、厚生労働省の発表(PDF)によると、2016年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」(PDF)で、長時間労働の是正に向けた勤務間インターバルを導入する企業への支援として、勤務間インターバルの自発的導入を促進するため、専門的な知識やノウハウを活用した助言・指導、こうした制度を積極的に導入しようとする企業に対する新たな支援策を展開することになったそうです。このことから、国をあげて勤務間インターバル規制に乗り出そうとしていることが分かります。

勤務間インターバル規制と勤務時間中の休憩

日本では労働基準法によって、以下のように労働時間は1日で8時間、1週間で40時間と決められています。

第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労働基準法第三十二条

労働基準法には上記のような規定があり、労働者にその時間を超過する労働をさせるためには労働基準法第36条に則って、36協定と呼ばれる労使間での協定を締結して労働基準監督署への届け出を事前に済ませておかなければなりません。36協定において定める労働時間の延長の限度等に関する詳細は、厚生労働省の時間外労働の限度に関する基準(PDF)に定められています。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

労働基準法第三十六条

なお、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合には、特別条項付きの36協定を労使間で締結することにより、限度時間を超える時間を延長時間にできます。こちらも詳細は厚生労働省の時間外労働の限度に関する基準(PDF)に定められていますので、興味のある方はご覧ください。

このように、日本では労働基準法で労働時間の上限の基準が決まっていて、労働時間に原則や決まりはあるものの、実態としては労使間で36協定を所定の方法で結んだ上で労働基準監督署へ届け出をすることによって、基準を超えて労働させることができてしまいます。日本で長時間労働がなかなか改善できない理由の一因が、ここにあるのかもしれませんね。労働時間の上限を労使協定によって合法的に解除できてしまっていることからも、現状では規制が本来の目的に沿って機能しているとは言い難い状況にあるとも言えます。

また、ストレス耐性は人によってかなり違いますが、過労死と判断される際の業務との因果関係に関しても時間外労働の時間数が目処にされています。

1カ月あたりの時間外労働 業務と過労死等との関連
45時間以内 弱い
45時間を超える 徐々に強まる
発症前2カ月〜6カ月に80時間を超える
(2、3、4、5、6カ月間のいずれかの期間)
強い
発症1カ月前に100時間を超える

労働基準法で規制されているのはあくまでも、就業時間中の休憩時間についてであって、いわゆる勤務間インターバル規制のように、今日の勤務と明日の勤務との間隔に関する法律上の規定はありませんでした。そのような中で働き方改革を進めたい政府は、残業時間の上限規制に関して就業と始業の間に一定の休息時間を設けるという努力義務を事業主に課すことを法律に明記することになったようです。

ちなみに、EU(ヨーロッパ連合)加盟国には、1993年に制定されたEU労働時間指令で導入された勤務間インターバル規制があります。これは「24時間につき、最低でも連続した11時間の休息時間」を義務化するというものです。例えば、所定労働時間が8時から17時まで(休憩は1時間と仮定します。)の勤務をして、その後に22時まで時間外労働をしたとします。この場合、連続した11時間の休息時間を与えるためには、翌日は9時以降からの就業しか認められません。本来の始業時刻は午前8時ですが、勤務間インターバル規制によって、この日の就業は午前9時以降からしか認められません。この1時間に関しては基本的に就労を免除し、一般的な遅刻や欠勤とは区別します。なお、就労が免除された時間に関しての賃金の有無に関しての議論はさまざまな意見があるようですが、賃金の扱い方に関しては事前に労使間での取り決めをしておくのがスマートでしょう。

勤務間インターバル規制の目的

勤務間インターバル規制に期待されるもの、目的は長時間労働の抑制を目指し、恒常的な長時間労働という悪習などから労働者を救うことです。また、長時間労働によって引き起こされた心身の不調による休職者を出さないためにも、勤務間インターバル制度は有効ではないでしょうか。

これまでの仕事の仕方では、労働者のワーク・ライフ・バランスの改善は期待できないどころか、労働者の心身の健康を害するような事態が続出してしまいます。例えば、過労などはうつ病の原因にもなることが広く知られていますが、長時間労働を苦にして自殺してしまって裁判になった例もいくつもありました。長時間労働あるいは過重労働による疲労が心身に蓄積し、うつ病になってしまったり、正常な判断ができなくなってしまったりして、最後に自殺してしまったというニュースをこの数年で何件も聞いています。

日本では、これまで長時間労働に対しても時間外割増賃金で対応していた部分が大きいのですが、労働安全衛生法の趣旨を考えれば、労働者の心身の健康と安全を守ることが第一義であるべきでした。実際に行った時間外労働に対して時間外手当という賃金を払うのは当然ですが、そこには事業主としての安全配慮義務(労働契約法第五条)は見えません。

(目的)
第一条 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。

労働安全衛生法第一条

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法第五条

ですから、労働者の心身の健康と安全を守るという観点から考えれば、労働時間を単に管理するだけではなく労働者が休息をとれる時間(ここでいうインターバル)を確保することが重要と言えます。勤務間インターバル規制によって、労働者は1日の労働と翌日の労働との間に所定の間隔をあけることができるようになり、過重労働が防止できます。この勤務間インターバル規制があることで、時間外労働の時間数に上限を設定できますから、長時間労働の抑制になるというわけです。これによって、長時間労働や過重労働などによる過労死などを含む健康被害の防止に効果があると考えられます。

勤務間インターバル規制とこれまでの働き方の違い

日本では労働基準法によって、使用者は労働者に労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与える義務を負っています。

(休憩)
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

労働基準法第三十四条

一方で日をまたいで考えた場合に、既存の労働基準法だけでは十分な休息時間が保障されていなかったという事実もあります。

仕事の途中で与える休憩時間に関しての規制は上記の労働基準法にあるので、これまでは所定労働時間と時間外労働時間の上限だけを考えていました。つまり、その日の就業を終えた時間と翌日の就業の開始の時間との間隔は全く考えられていなかったので、極端なことを言えば、今日の仕事として所定労働時間と時間外労働を終えて、そのまま翌日の労働をさせることも可能でした。今日の仕事を何時に終えようが翌日は所定の時間に仕事を開始するという働き方ですので、どうしても労働者の心身には疲労が蓄積し、過度の疲労によって心身の健康が慢性的に害された状況にもなってしまいます。

これに対して勤務間インターバル規制では、勤務と勤務の間の時間的な間隔が保障されていますから、労働者の心身の負担はこれまでよりもぐっと軽減されます。特に長時間労働などによる健康被害には有効な手段と言えます。すでに自主的に勤務間インターバル規制を導入している企業もあります。

※呼び方は違いますが、日本にも実は以前から勤務間インターバル規制のようなものはありました。ドライバー(トラック、タクシー、バス)の場合には、自動車運転者の労働時間等の改善の基準というものがありました。トラック、バス、タクシーごとに基準がありそれぞれに特例などもありますので、詳細な部分にご興味のある方は厚生労働省の自動車運転者の労働時間等の改善の基準でご確認ください。

勤務間インターバル規制とこれまでの働き方の違い

勤務間インターバル規制の助成金

勤務間インターバル規制には助成金があります。職場意識改善助成金(PDF)」(職場環境改善コーステレワークコース所定労働時間短縮コース勤務間インターバル規制導入コース)というもので、勤務間インターバル規制の導入に取り組んだ際に、その実施に要した費用の一部を助成するというものです。

事業主が事業実施計画において指定したすべての事業場において、休息時間が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバル規制を導入に取組んだ場合に、事業の実施に要した経費の一部を成果目標の達成状況に応じて支給されます。2017年3月末時点では勤務間インターバル規制は法律として明文化されていませんので、インターバルを何時間にするか迷ったら9時間を一つの目安にすると良いかもしれません。

勤務間インターバル規制を導入している企業

政府の働き方改革が進む中、勤務間インターバル規制は長時間労働を是正する強力なツールとして注目を浴びています。こうした中、日本でも労働組合が主導して勤務間インターバル規制を導入する企業が見られるようになってきました。日本には職業別にたくさんの労働組合がありますが、勤務間インターバル規制に特に積極的なのは情報サービス産業です。一時期、情報通信産業は時間的な拘束が長く、深夜残業もあると言われていたこともあってか、世間からは離職率も高いと認識されていました。しかし、情報産業労働組合連合会(以下、情報労連)では、他の業界に先駆けていち早く勤務間インターバル規制に取組んでいます。日経BPや毎日新聞、日経新聞などで報道された勤務間インターバル規制に取組む企業をいくつか見てみましょう。

勤務間インターバル規制に取り組む企業の事例~KDDI

「勤務間インターバル規制といえばKDDI」と名前が出るほどに有名です。KDDIでは旧KDD時代からから勤務間インターバル規制を導入していたそうです。日経情報ストラテジーのニュースなどによると、就業規則と安全衛生管理規定の併用で、2段階の勤務間インターバル規制を設け、1つ目の規制(拘束力は弱め)として安全衛生管理規程で11時間の勤務間インターバルを規定し、勤務間インターバルが11時間未満の日が一定の回数以上で産業医との面談になるというものです。2つ目の規制は、就業規則で8時間の勤務間インターバル(拘束力は強い)を規定し、8時間経つまでは翌日の勤務に就けないというものです。

勤務間インターバル規制に取り組む企業の事例~企業ごとにオリジナル性あり

日本では大手企業を中心に勤務間インターバル規制が広がりを見せています。例えば、以下のようになっています。

日経に報じられたリコーのエフェクティブ・ワーキングタイム制(20時以降の残業禁止、9時から15時半をコアタイムとするフレックスタイム制の併用で20時から翌朝9時までで13時間のインターバル)、スーパーマーケットのフレッセイでは11時間の勤務間インターバル、エステティックのTBCとエステ・ユニオンは勤務間に9時間の休息時間の義務化など、各社が工夫を凝らした取り組みを行っています。

勤務間インターバル規制の時間をどうするか

実際に勤務間インターバル規制を導入しようとなったとき、さまざまなことで迷うと思いますが、どこの企業でも迷うのがインターバルとして設定する時間ではないでしょうか。

EU労働時間指令で導入された勤務間インターバル規制は「24時間につき、最低でも連続した11時間の休息時間」を義務化するというものですが、日本の場合にはまだ法制化されておらず、勤務間インターバル規制を導入している企業は各社で基準を決めて制度を決めているようです。

迷うことが多い勤務間インターバル規制の時間ですが、。「職場意識改善助成金(PDF)」の勤務間インターバル規制導入コースの基準を参考にしてみてください。この助成金では休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」となっていますので、まずは9時間のインターバル時間を設けるようにしてみましょう。

一般的に拘束力の強い順に、法律、労働協約、就業規則、労働契約となっています。(労使協定は、労働協約や就業規則のように労働契約を抑えるほどの模範的効力はありません。)ですから、勤務間インターバル規制の時間数は労働協約が適当ではないでしょうか。

もし、9時間ではいきなりハードルが高すぎるという懸念があるようでしたら、すでに勤務間インターバル規制を導入しているKDDIに倣って最初は7時間から始め、状況に応じて8時間にするなど柔軟に対応していく方法もあります。そして、最終的にはEUと同じように11時間程度を目安として勤務間インターバル規制を導入できればベストだと思います。
労働者は、終業後に自宅へ帰るための通勤時間(朝の通勤時間も)、食事の時間、純粋に心身を休息させる時間を必要としているのは言うまでもありませんが、ストレスを発散するためにも多少なりとも自由に使える時間が必要です。

少々古い資料ですが、ご参考までに日本全国の通勤時間数の統計データの地図です。この地図を見ると大都市圏に長い通勤時間を必要とする人が多いことが分かります。

家計主の通勤時間の中位数
総務省統計局 平成20年通勤時間の状況より

勤務間インターバル規制の対象者

では、勤務間インターバル規制の対象になりうるのはどのような人たちなのでしょうか。

最も望ましいのは、言うまでもなく全社員です。しかし、職種によっては緊急対応や臨時の対応が必要なものもあり、全員に一律で同じ勤務間インターバル規制を導入するのは実態にそぐわないケースもあります。そのようなケースを考慮し、管理監督者や裁量労働制の適用者を除外するという考え方もあります。ただし、このような場合には全社員の最低限の健康を確保するために、拘束力の違う規定を段階的に設けるようにしましょう。例えば全員一律で7時間の勤務間インターバル規制を労働協約で規定し、管理監督者や裁量労働制の適用者に関しては6時間の勤務間インターバル規制を就業規則で規定するなどです。

このような段階性の制度を導入しているのが、先の例に挙げたKDDIです。KDDIのようにインターバル時間の長さと拘束力の違うもので2種類の勤務間インターバル規制を用意するのが現実的かもしれませんね。(1つ目の規定は安全衛生管理規程で11時間の勤務間インターバル規制し、2つ目の規制は、就業規則で8時間の勤務間インターバル規制。)拘束力の強い規則で短めの勤務間インターバル規制、それよりも拘束力の弱いものでもう少し長い時間を設定するなどです。

また、食品サービス業店舗、看護師、介護関連職種などに代表される人手不足や24時間体制での対応が必要とされる職種に関しては勤務間インターバル規制の導入にあたり他の職種よりも懸案事項が多いことが予測されます。これらの職種にいかに対応していくかは今後の課題にもなっていくのではないでしょうか。

さいごに

勤務間インターバル規制は長時間労働の抑制、心身の疲労による健康被害などを原因とした休職者の増大を回避するためにも一定の効果が期待できます。導入済みの企業の実例などを見て、各社に合う方法での取組が必要ではないでしょうか。

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