社員がメンタルで退職!! 精神障害の労災認定の仕組みってどうなってるの?

社員がメンタルで退職!! 精神障害の労災認定の仕組みってどうなってるの?

メンタルと労災の関係について、これまでに考えたことはありますか?平成23年12月に新たな認定基準となった精神障害の労災認定。メンタルによる労災の事案を防ぐためにも、新しい基準をチェックしておきましょう。

メンタル絡みの労災の現状

最近では、業務上の心理的な負荷を原因とする精神障害での葬祭の請求が増えています。でも、メンタル絡みの労災と聞いても、実際にメンタルの不調で労災と認定された人がどのくらいいるのかを知らない人が多いのではないでしょうか。まずは、メンタルと労災の現状を数字で見てみましょう。

下の表は、厚生労働省が発表した精神障害の労災補償状況についてです。

精神障害の労災補償状況表
厚生労働省 平成26年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2(PDF)より

この発表されたデータの精神障害の項目をグラフ化すると、下記のようになります。

精神障害の労災補償状況グラフ
厚生労働省 平成26年度「過労死等の労災補償状況」別添資料2(PDF)のデータより作成

やや減少した年もありますが、全体で見ると少しずつ数字が大きくなってきていることが分かります。

上の表からも分かるように、メンタルの不調によって労災として請求された事案は1,456件、支給が決定された件数は497件で、どちらも過去最多です。メンタル上の不調を労災に限定せずに考えると、社会全体としてもメンタルに何らかの問題が増加していますので、メンタルヘルスケアの重要性をより痛感する時代になってきたとも言えます。

傷病別の医療機関にかかっている患者数の年次推移
第19回社会保障審議会医療部会資料 4疾病5事業について(PDF)より

メンタル不調を原因とした1カ月以上の休業や退職をした人の図をご覧いただくと、ショッキングな数字が並んでいることがお分かりいただけると思います。

過去1年間にメンタルヘルス不調により連続して1カ月以上休職又は退職した労働者がいる事業所の割合

仕事でのストレス

心理的な負荷は環境や人によって感じ方が違います。最近ではストレスチェックの義務化もありますので状況が改善されることを願うばかりですが、実際には、なかなかうまくいっていない点があるということでしょうか。そのような中で、メンタル面での不調による労災の請求が増えていること、また、そのメンタル面の不調を労災として認められるかどうかの判断を迅速にすることが求められるようになってきました。

上記を踏まえて、厚生労働省では、これまで平成11年の「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」の下で労災か否かの判断を行ってきましたが、メンタルの不調者に対する労災の認定を誰にでも分かりやすいものにし、かつ迅速に行えるようにするために平成23年12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」と呼びます。)を定めました。

今回は、この認定基準について概要や考え方をお話ししていきたいと思います。

※厚生労働省では「精神障害」と呼んでいますが、今回はあえてメンタルの不調と呼びます。メンタルの不調を抱えている人やそのご家族、あるいはそのような状況にある人の周囲の人のお気持ちとは裏腹に、実際にメンタルの不調を抱えている人に直接接したことのない人の中には、まだまだ誤解や偏見によって「精神障害」という言葉にマイナスなイメージを持っている人がいることを鑑みて、ここではメンタルの不調と呼びます。

※心理的負荷によるメンタルの不調(厚生労働省で言う「精神障害」と同義)の認定基準を以下、認定基準と呼びます。

1. メンタルの不調が起こることについての基本的な考え方

まず、最初にメンタルの不調は誰にでも起こり得ることで、それによって労災の請求に至ることも多々あります。
メンタルの不調はさまざまな外部からのストレス、あるいはプレッシャーなどとそれに対するその人の対応力の強さとの関係で起こることがあると考えられています。

今回のテーマでもある「メンタルの不調と労災」の関係に限定してお話しすると、業務によるストレスあるいはプレッシャーなどは業務上の事故や災害に起因するものや、仕事で失敗したこと、過重な責任、仕事の量や質、近年ではニュースにもなりましたが、職場でのいわゆるパワハラやモラハラ、セクハラや職場でのいじめなどの人的な要因によるメンタルの不調も労災につながるケースもあります。職場で代表的なハラスメントには先ほどのパワハラ、モラハラ、セクハラが挙げられますが、現代では30種類以上ものハラスメントがあると言われています。例えば、セクハラの被害を受けた人が会社に嫌がらせの事実を訴えたことによって二次被害に遭ってしまうセカンドハラスメント、妊娠や出産に関連するマタニティハラスメント、タバコの煙によるスモークハラスメントなど身近なところにもたくさんあります。

業務や通勤に起因した事故やケガ以外にも、ストレスや過度のプレッシャーなどの心理的な負担によってメンタルに不調をきたした場合、例えば、長時間労働などによるうつ病や急性ストレス反応などもこれまでにメンタルの不調として労災の認定がされた事例もあります。

ただ、発病したメンタルの不調が実際に労災として認定されるのは、そのメンタルの不調が業務による強いストレスと判断できる場合に限られます。ですから、業務からのストレスが強かった場合でも、それと同時に私生活でのストレスや体調の不良などがあった場合には、医学的な判断を元に労災かどうかを検討することになります。

2. メンタルの不調の労災認定要件とは

メンタルの不調に関して、労災が認定されるための要件は下記です。

メンタル不調による労災の認定要件
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

では、実際にこれらの要件を満たすかどうかはどのように判断されるのかを見ていきます。

2-1 メンタルの不調が労災として認定基準に該当するかどうか?

まずは、こちらの表をご覧ください。

ICD-10 第5章「精神および行動の障害」分類
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

メンタルの不調が労災の認定基準の対象となるか否かは、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類されるかどうかという点がまずチェックされます。認知症や頭部外傷、アルコールや薬物による障害は、メンタルの不調として労災の認定を受けることはできません。

つまり、メンタルの不調があっても、それが先ほどお話ししたようにその人固有の体調不良である場合は認定されないということです。

一般的に耳にするものですと、業務に起因するうつ病や急性ストレス反応があげられます。労災に関する「業務遂行性」、「業務起因性」については、過去の記事「業務上疾病の55%は腰痛…業務上疾病は2つのキーワードを覚える!」をご確認ください。

2-2 業務からの強い心理的な負荷があったかどうか

そのメンタルの不調を発症する前の6カ月間に関しての状況を確認します。そして、その期間にあった業務上の出来事について、心理的な負荷が強いと評価されるか否かをチェックします。基本的に下の「業務による心理的負荷表」(別表1)によって判断します。

「特別な出来事」があった場合

その6カ月の期間に下の表の「特別な出来事」に該当するものがあった場合には、心理的な負荷の総合評価は「強」となります。この表の記載内容からも、これらの場合には該当の労働者がかなりのストレスを受けているであろうことが推察されます。

別表1 業務による心理的負荷評価表
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

「特別な出来事」がなかった場合

もし、メンタルの不調を発症する前の6カ月間に「特別な出来事」がなかった場合には、心理的な負荷がどの程度であったかを強中弱の3段階で評価します。「出来事後」の状況の確認と評価、恒常的な長時間労働の有無の確認と評価など多岐に及ぶ内容を考慮します。具体的な出来事としても、かなりの種類が厚生労働省から挙げられていますので、「業務による心理的負荷表」(別表1)(5ページから9ページ目)を直接ご確認いただければと思います。

例えば、退職の意志がない人にしつこく退職を求めたり、早期退職制度の対象になったりということも、この別表1に「特別な出来事」として含まれます。この退職の強要は心理的負荷が最も大きいIIIとして評価されます。

場合によっては、メンタルの不調を原因として、退職を余儀なくされることもあります。うつ病や急性ストレス反応などで、通常の勤務に耐えられなくなって退職した場合などが挙げられます。

長時間の労働があった場合の評価について

ここで注意が必要なのが、長時間労働がある場合です。長時間労働をしていた人がメンタルの不調を抱えている場合に労災を認定するかどうか?という判断をする場合には、評価に関しては3つのポイントから行います。

長時間労働がある場合の評価方法
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

ご覧いただいている上の厚生労働省の資料からも分かりますが、長時間の勤務は労働者の心身の健康を蝕む恐れがありますので、労働時間の管理には細心の注意を払うようにしましょう。

業務によって強い心理的な負荷を受けたかどうかを判断するには、メンタルの不調が発症する前の6カ月の期間についてみていきますが、特例として、継続した各種のハラスメントに関しては発症の6カ月前ではなく、そのハラスメントが始まった時点からの心理的なストレスに関しての判断となります。

2-3 業務以外の心理的な負荷によるものかどうか

ここまでは、メンタルの不調が業務に関連する心理的な負荷を下人としたものかどうかということに関してみてきましたが、メンタルの不調はもちろん業務外の個人的な事情による心理的な負荷が原因になることもあります。

業務に関連しないものに関しては「業務以外の心理的負荷評価表」(別表2)を使って、その心理的な負荷が客観的に見てどのくらいの程度のものだったかを評価します。そして、その内容によっては、それがメンタルの不調を発症する原因となったかどうかをより慎重に判断することになります。もちろん、ストレスの感じ方は人によって違うのですが、それをどのように判断するのかという点については客観的な基準に基づいて行います。

業務に関連しない心理的な負荷としては、自分自身のプライベートな出来事、家族や親族に関連すること、金銭問題、事件や事故、住環境、他人との関係などが挙げられています。そして、それぞれの中で、心理的な負荷の強度を3段階に分けて考えることになっています。

また、これまでにその人がメンタルの不調に関しての既往歴があるかどうか、アルコールへの依存状況などがどうなっているかという個人的な部分に関しては、既往歴の有無と内容を確認する必要もあります。

3. 自殺の取り扱い

業務からの心理的な負荷を受けた人が、不幸にしてメンタルの不調をきたしてしまった場合には、要件に該当していれば労災として認定されますが、時にはそのメンタルの不調を発症したことによって自殺してしまうこともあります。

一般的な自殺であれば労災の補償の対象とはなりませんが、業務上の心理的な負荷が原因でメンタルに不調をきたしたことが原因の自殺は、例外として業務に関連するものとして認められるケースもあります。

実務的なお話になりますが、社会情勢の変化や業務から受ける心理的な負荷が「業務による心理的負荷評価表」(別表1)からも確認できるように非常に幅広いものとして認識されるようになり、何度も改正を続けているような状況です。ここ最近ではストレスチェック制度の義務化など、労働者の心の状態への配慮を求めることが「義務化」されたことからも状況が大きく変わってきていることが伺えます。また、職場での各種のハラスメント問題が表面化してきたことで、労働者が受けるストレスが社会的な注目を集めるようになってきました。

労働者災害補償保険法(以下、労災法)12条の2の2第1項では、労働者の故意による死亡は保険給付を行わないとしています。その一方で、メンタルの不調による自殺の場合には、業務上の死亡と認め労災と認定されるケースもあります。この場合のフローは下記です。

自殺が労災認定されるまでのフロー
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

業務によって受けた心理的な負荷を原因としてメンタルの不調をきたし、自殺してしまった場合を想定してください。

メンタルの不調を発症した結果として正常な認識や判断ができなくなってしまい、行為の選択能力にも問題が出てしまい、自殺を抑制する力が著しく欠如した状態=故意の欠如と推定されて、その自殺が労災として認定されることになります。

業務上の心理的な負荷によってメンタルに不調をきたした場合の自殺=業務上の死亡で労災を認定することについては、平成年に通達がありました。この通達の中で詳細な判断指針が示されていますので、詳細は厚生労働省の「平成11年9月14日基発第544号(PDF)」でご確認ください。

ここで注意しておきたいのが、業務上の心理的な負荷というのは、業務に直接的に関連するものとは限らないということです。例えば、セクハラによる労災の認定については通達「平成17年12月1日の基労補発第1201001号(PDF)」32ページにも詳しく記載がありますし、職場内でのパワハラを含む上司から部下に対するいじめに関しても通達「平成20年2月6日付け基労補発第0206001号(PDF)」34ページに、労災としての認定に際してどのように評価するのかが決められています。過度の叱責などで継続的に部下に心理的な負荷をかけた場合、たとえそれが指導のつもりであったとしても労災になることもあります。

4. 悪化の取り扱い

業務に関連しない心理的な負荷を原因としてメンタルの不調を発症した場合で、治療が必要な程度のものが悪化した場合には、悪化する以前に業務からの心理的な負荷があったとしても、その心理的な負荷がメンタルの不調のさらなる悪化の原因と直ちに判断はできません。

このような場合には、症状が悪化した時点から半年ほど前にさかのぼって業務上の負荷を確認することが必要です。もし、「特別な出来事」(別表1)に該当することがあって、そこからおおむね6カ月以内に医学的に見て自然経過を超える悪化と判断された場合には、その悪化した部分に限っては「特別な出来事」に起因するものとして労災の対象です。

5. 治ゆの取り扱い

労災法でいう「治ゆ」は、一般に言う「治ゆ」、つまり症状が完全に治ったものだけを指す言葉ではありません。労災法では「治ゆ」というのは、症状が安定して、それ以上の治療をしてもそれ以上の回復・改善が期待できないものも「治ゆ」と言います。また、「寛解(かんかい)」の診断がされて通常の勤務ができる状態も、労災法では「治ゆ」とします。これは、事故などによるケガだけではなく、メンタルの不調による労災でも同じです。そして、このような状態になると療養給付や休業給付、もしくは療養補償給付や休業補償給付は支給されなくなります。

また、基準以上の障害が残ってしまった場合には障害給付や障害補償給付は別途、請求できます。業務もしくは通勤を理由とするケガや病気に関しては、残存する障害が障害等級表に該当すればその程度に応じた金額が支給されます。手続きの詳細は、こちらでご確認ください。(厚生労働省 障害(保障)給付の請求手続きについて

6. メンタルの不調の労災認定

業務上の心理的な負荷を原因とするメンタルの不調は、労災の認定基準に照らし合わせた上で労災の事案かどうかが判断されます。

どのようなフローでメンタルの不調が労災として認定されるのか、確認していきます。

第1段階 認定基準の対象となるメンタルの不調を発症している。

まず、別表1を確認し「特別な出来事」に該当するものがあったかどうかを判断します。「特別な出来事」に該当する出来事があれば心理的負荷は「強」、なければ心理的負荷は「中」もしくは「弱」になり、この「中」・「弱」は労災として認定されません。ここまでを図解したのが、下の図です。

業務による心理的負荷の評価
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

第2段階 別表2を使って判断を行います。

先ほどの第1段階で「特別な出来事」があったケース(心理的負荷は「強」)では、さらに、それがどの程度の強度だったのかを3段階で判断します。ここでは3段階のいずれに分類した上で、その人固有の要因があったかどうかの評価を行い、業務に関連しない出来事によってのメンタルの不調であると判断されたケースは労災になりません。その人固有の問題というのは、別表2に詳細がありますが、自分自身のプライベートな出来事、家族や親族に関連すること、金銭問題、事件や事故、住環境、他人との関係などが挙げられます。自殺に関しては、この第2段階の最後の部分で労災か否かが判断されます。

フローは、第1段階の続きです。

業務以外の心理的負荷の評価
厚生労働省 精神障害の労災認定(PDF)より

ご覧いただいたように、労働者が業務から受けた心理的な負荷を原因として発症したメンタルの不調は、労災として認定されるまでにいくつもの検討や判断が重ねられていきます。メンタルという見えにくい性質のものですから、より慎重に客観的に判断されていることがお分かりいただけたと思います。

さいごに

今回、メンタルの不調に関する労災認定のフローを確認しましたが、このような事態を招かないことが最も重要なことです。まずは「特別な出来事」に該当するものが社内にないか、過重な労働がされていないか社内のチェックをお願いします。

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健康管理
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